72°

書いたものなど

旅行

 

巻く、巻く、ゆっくりと、
うすくけぶる山並みが黙って通りすぎていく。

 

壁むこうに臥せる彼らが見えなくなって、
隣席の友人はなにも言わないが、
潔白なくらい、その人に話すこともなく。

 

よく冷えた瓶、朝雨、そういうものたちが、
うしろに飛び去るようにしていって、
アップライトの幻聴も、
境目のない世界も、その人の明日も、
みんなかすかになってゆく。

 

いくつかの橋を越えて、すこし眠ったり、
果てしのないことについて考えたり、
友人がまどろむのを眺めながら、
瑕疵もなく、簡単に、
とおくにいってしまうことを恨んだり。

 

巻く。

 

わたしたちはあきれるほど知っていた。