72°

書いたものなど

珂のころに

零下にも街はなりにて歩行でゆく夜をかえりみててっぺんまで冬

 

翌夜の大鎮守を眺めるのもさりとて惜しく故郷を思うが

 

陽ありて眠り雪のいるはしばしに、コンチネントのみやげを思えば

 

いちめんの白は迷信、青を刷いて海原にもする北の作法です

 

おぼつかなく日がなに磨いて街の雪よ、焼いてまなうらを、血の気も失くして

 

鈍重でも寒からずの風笛吹いて窓軋ませる冬はまた去る

信仰

みなさんの千年を引き受けましょうか、夜をまだ越えられなくても

 

ねがわくば、そう、遠退いて パライソの如くいだいて 間違えないよう

 

あるいは易しく信じたり ぼくらこの眠りばかりはさまさないように

 

在るものの欺瞞はひどくとりとめもない しかして手ばかり握るのだ

 

永遠とははばかりなくてあこがれだ だからしばらくねじ伏せている

 

ぼくら、ほんとうを知っているがそうでなくとも見失わぬため祈っている

 

どうしても覚えぬあたりのいくばくはなくならなくて悲鳴をあげた

 

語るな ましますならば嘘になるので心臓に鉄環をはめて

 

何を述べてももしかするといつしかにはりさけたとしてぼくらの標だった

東京都/2017年度

愛の街!夜をかわして下北沢、それかあるいはキャットウォーク

 

かつては飯田橋ともいう、水底を覆う立体交差の遺跡

 

朝霧に煙れる都市は東京という名のしずかな王冠をいただく

 

ここ上野、ま東をにらみ煙を吐く、統治者たちは定刻を待つ

 

そしてまだ病んだクエイクがあるのか、新宿は人間讃歌をうたえるか

 

声を嗄らす風も冷たくて、葛西には、空泳ぐ人類の賛美歌を響かせ

 

歩けども歩けどもまがつの道では振り返るなかれ、神保町の

 

寒空やひとの夢などをプレスして品川渡るひとの夢ゆく

「海で死んだ若ものは」

 

おおきな日輪の奥底にやわらかに眠る水兵がいて、
想像のなかで、インド洋まで航跡をつけている、
そう、わたしは信じてはいないけれど、たしかに教科書にはそうある。

 

きっとにえらい、あの先生が言った。

 

本当なのだろうか、
ぶ厚い空の底のあれをサルベージしたら、
かつての夢から生まれたさなぎが見当たるだろうか。

 

手のなかの海戦や、あるいは舵、そういったもの、
口にするのは憚られるような、おそろしかったこと、
かたちばかりに喉をならしたラジオ放送や、
素敵だった死のこと、
そんなものたちが、あの日輪にある、
それは、本当なのだろうか。

 

八月の昼や、九月に泳ぐホテルや、インクの香りが、
あるいは、姿ばかりは向日葵とみえるきらぎらしい歳月が。

 

本当なのだろうか、
本当なら、試させてもらえないだろうか、
わたしのための血潮が、もしかしたら、わたしのためではないこと、
そうでなければ、鍛えた鋼のかぐわしさにかえた麦秋のあること、
いずれにせよ、わたしの歌が、たしかに日輪に拠るものであること。

 

試させてもらえないだろうか、
あの硬く輝く日輪に、わたしの歌うものが眠っていること。

 

墓守と王

墓守の王は、呼べ、いま再びと、祈るようにして傲慢をひさぐ

 

踏むだろう砂漠の呼び名、こたえなくとも歩けよと、砂漠でないから

 

都市のようないまも棲む者の音ありて、足音立てても踏みいるものかと

 

廃れじの風ひるがえる灯台に史実たべるものの呼ぶ声がして

 

旅人よ!ここはあなたの国だ、好きに歩くといいよ、やがて倒れるまで

 

「なあ、気づいたか?もう、」みちしるべなくてわたしたちこそ王になるべく

 

きらぎらと世界王国の栄華である、墓標もまた神殿になった

白々しいもの

かたみ目にトジて永遠の途をゆく、その許にゆるせよ記録の指を

 

過ぎてこそ踊りて先の名であれど望むべくもなしこの世の春は

 

高名のはばったくても這いながらかつての愛を抱きとめている

 

あきれるまで新聞ざたのわれわれも背に気をつけよ、武器も無くては

 

ぼくらはエキゾチシズムをいつになっても求めている、ばかみたいに

 

舌先からやはりどろどろ 語るのもおろかに啜る旧字の悪い味

空と燐光

ふみこえた今日が夜中の延長戦ならばいまさら不夜城でもなく

 

朝のまるで無遠慮なところ嫌いにはならない、しかし心拍はうるさい

 

この夜に余命を差し込めたらいいのに 青いろの夢の跡地をのぞんで

  

そそぐように変わっていくとき、さわれたら、柔らかくも焼けよ、掌