東京都/2017年度
愛の街!夜をかわして下北沢、それかあるいはキャットウォーク
かつては飯田橋ともいう、水底を覆う立体交差の遺跡
朝霧に煙れる都市は東京という名のしずかな王冠をいただく
ここ上野、ま東をにらみ煙を吐く、統治者たちは定刻を待つ
そしてまだ病んだクエイクがあるのか、新宿は人間讃歌をうたえるか
声を嗄らす風も冷たくて、葛西には、空泳ぐ人類の賛美歌を響かせ
歩けども歩けどもまがつの道では振り返るなかれ、神保町の
寒空やひとの夢などをプレスして品川渡るひとの夢ゆく
「海で死んだ若ものは」
おおきな日輪の奥底にやわらかに眠る水兵がいて、
想像のなかで、インド洋まで航跡をつけている、
そう、わたしは信じてはいないけれど、たしかに教科書にはそうある。
きっとにえらい、あの先生が言った。
本当なのだろうか、
ぶ厚い空の底のあれをサルベージしたら、
かつての夢から生まれたさなぎが見当たるだろうか。
手のなかの海戦や、あるいは舵、そういったもの、
口にするのは憚られるような、おそろしかったこと、
かたちばかりに喉をならしたラジオ放送や、
素敵だった死のこと、
そんなものたちが、あの日輪にある、
それは、本当なのだろうか。
八月の昼や、九月に泳ぐホテルや、インクの香りが、
あるいは、姿ばかりは向日葵とみえるきらぎらしい歳月が。
本当なのだろうか、
本当なら、試させてもらえないだろうか、
わたしのための血潮が、もしかしたら、わたしのためではないこと、
そうでなければ、鍛えた鋼のかぐわしさにかえた麦秋のあること、
いずれにせよ、わたしの歌が、たしかに日輪に拠るものであること。
試させてもらえないだろうか、
あの硬く輝く日輪に、わたしの歌うものが眠っていること。