巻く、巻く、ゆっくりと、
うすくけぶる山並みが黙って通りすぎていく。
壁むこうに臥せる彼らが見えなくなって、
隣席の友人はなにも言わないが、
潔白なくらい、その人に話すこともなく。
よく冷えた瓶、朝雨、そういうものたちが、
うしろに飛び去るようにしていって、
アップライトの幻聴も、
境目のない世界も、その人の明日も、
みんなかすかになってゆく。
いくつかの橋を越えて、すこし眠ったり、
果てしのないことについて考えたり、
友人がまどろむのを眺めながら、
瑕疵もなく、簡単に、
とおくにいってしまうことを恨んだり。
巻く。
わたしたちはあきれるほど知っていた。