72°

書いたものなど

「海で死んだ若ものは」

 

おおきな日輪の奥底にやわらかに眠る水兵がいて、
想像のなかで、インド洋まで航跡をつけている、
そう、わたしは信じてはいないけれど、たしかに教科書にはそうある。

 

きっとにえらい、あの先生が言った。

 

本当なのだろうか、
ぶ厚い空の底のあれをサルベージしたら、
かつての夢から生まれたさなぎが見当たるだろうか。

 

手のなかの海戦や、あるいは舵、そういったもの、
口にするのは憚られるような、おそろしかったこと、
かたちばかりに喉をならしたラジオ放送や、
素敵だった死のこと、
そんなものたちが、あの日輪にある、
それは、本当なのだろうか。

 

八月の昼や、九月に泳ぐホテルや、インクの香りが、
あるいは、姿ばかりは向日葵とみえるきらぎらしい歳月が。

 

本当なのだろうか、
本当なら、試させてもらえないだろうか、
わたしのための血潮が、もしかしたら、わたしのためではないこと、
そうでなければ、鍛えた鋼のかぐわしさにかえた麦秋のあること、
いずれにせよ、わたしの歌が、たしかに日輪に拠るものであること。

 

試させてもらえないだろうか、
あの硬く輝く日輪に、わたしの歌うものが眠っていること。

 

墓守と王

墓守の王は、呼べ、いま再びと、祈るようにして傲慢をひさぐ

 

踏むだろう砂漠の呼び名、こたえなくとも歩けよと、砂漠でないから

 

都市のようないまも棲む者の音ありて、足音立てても踏みいるものかと

 

廃れじの風ひるがえる灯台に史実たべるものの呼ぶ声がして

 

旅人よ!ここはあなたの国だ、好きに歩くといいよ、やがて倒れるまで

 

「なあ、気づいたか?もう、」みちしるべなくてわたしたちこそ王になるべく

 

きらぎらと世界王国の栄華である、墓標もまた神殿になった

白々しいもの

かたみ目にトジて永遠の途をゆく、その許にゆるせよ記録の指を

 

過ぎてこそ踊りて先の名であれど望むべくもなしこの世の春は

 

高名のはばったくても這いながらかつての愛を抱きとめている

 

あきれるまで新聞ざたのわれわれも背に気をつけよ、武器も無くては

 

ぼくらはエキゾチシズムをいつになっても求めている、ばかみたいに

 

舌先からやはりどろどろ 語るのもおろかに啜る旧字の悪い味

空と燐光

ふみこえた今日が夜中の延長戦ならばいまさら不夜城でもなく

 

朝のまるで無遠慮なところ嫌いにはならない、しかし心拍はうるさい

 

この夜に余命を差し込めたらいいのに 青いろの夢の跡地をのぞんで

  

そそぐように変わっていくとき、さわれたら、柔らかくも焼けよ、掌

平成29年度 初夏の申し送り

あと60回はあるなどの傲慢に呆然と来る今年の夏は

 

この夏で戦争詠が四年目になります、どうぞ笑ってください

 

ああ、そうだね、ぼくらが殺した時代だ、しかし永くていつかに終わる

 

あるところのスコール降りて架線にはすがりながらも足場はなくて

 

またぐもの、明日などなくとも、われわれは天命のさまで果てを愛そう

 

おわりなく夏に塗られしの贅沢を贅沢と知る帰郷のときに

 

〈蝉〉よ君たちばかりはいずこを問わない 窓が同じであるように

 

砂州の、白くても暑くても、その上に見えるか、かなしい車両の死体が